6月12日
新宿高速バスターミナル集合。この日は後発隊の出発日でもあり、先発隊の下山日だった。奇しくも帰京場所が新宿であり、我々の出発に間に合ったので、全部員が集まることになった。先発隊の新人はすでに合宿を終え、疲れた表情を見せている。上級生はこちらを茶化す余裕はあるようだった。土産の瓶詰をもらい、バスに乗り込む。
目的地に着き、寝られそうな場所を探す。河原なども見たが、結局いつもの駅の前で寝ることにする。
6月13日
5:10起床-7:05奈良田発電所出発-14:00大門沢小屋到着
5時に起き、朝食を食べてタクシーに乗る。7時には奈良田発電所に到着し、錬成合宿が始まる。雨が降りそうなのでザックカバーを最初からつける。
しばらくは林道を歩き、何度か橋を渡ると登山道らしくなってくる。この日はずっと沢沿いに歩く登山道となる。初っ端から菅井が熱狂的なファンである、ももクロと佐々木を混ぜたような歌を歌い、上級生を煽ってくる。しかし、沢を渡っている途中で石の上で足を滑らせ、転んでしまう。足がほぼ濡れてしまったので、靴下を代えさせ、ビニール袋を間に入れて靴を履かせる。更にその後トップの佐々木が突然登山道から転げ落ちる。どうやら足場の岩が落ち、一緒に落ちてしまったようだ。あわてて様子を見に行くが、怪我はないようなのでひとまず安心し、先に進む。
そこから先も橋が多くかかっていて、ようやく終盤に差し掛かってきた時に、川の中に真ん中が浸かっている橋が出て来た。一応ロープが張ってあるのでそれをつかんで渡ろうとしたが、濡れた木が非常に滑りやすくなっていて、つかんだロープのおかげで済んでのところで落ちずに済んだ。橋自体も不安定なので、そのまま渡れば多分誰かは落ちるだろうという予感がした。一応上流と下流に分かれて偵察し、渡れそうな場所を探したが、近くにはなかった。仕方がないので流星法のように、ザックを先にロープ伝いに向こう岸に送り、あとから空身で渡ることにした。ザックをシュリンゲでくくり、ロープにかけたカラビナに細引きを付けて、向こう岸に渡った佐々木と内山が細引きをひっぱる形になった。新人は簡易ハーネスを作って待たせていたが、途中から加わり、何とか全部のザックを向こう岸に送ることが出来た。この作業に1時間以上かかってしまう。
ここを通過するとすぐに大門沢の小屋に着いた。設営は新人のみで一回で終了した。錬成定番のすき焼きを食べる。中嶋は小林が持ってきた某OGから頂いたココナッツジュースを非常に楽しみにしていたが、一口飲んだ瞬間のテンションの下がり具合が面白かった。菅井は中金鍋を持つのに疲れたようだった。この日から中金鍋は新人の体力を奪う存在として認識される。
6月14日
3:00起床-4:55出発-10:40大門沢下降点-13:25農鳥岳-15:50農鳥小屋到着
朝のパッキングで物が広がっているので注意が入る。1時間も歩くと登山道に雪が付き始める。一部沢の中が全面雪に覆われていたのでアイゼンを着けるが、すぐになくなってしまい外すことになった。沢に伸びる尾根の上には所々にしか雪はなかった。
順調に進んでいくと思われたが、雪上の大きなトラバース地点に着いた。直近の記録から、ここから先は急斜面で、現状の装備だとロープを張らないと通過できないだろうと考えていたので、あえて登山道から離れて、ガレ場の直登後ハイマツ帯の上を登ることにした。ガレ場では落石の危険があったのでヘルメットを着けて登る。しばらく登るとハイマツの中に入る。最悪100mほどの高度を藪漕ぎで登る事も覚悟したが、掴めるハイマツがあるだけましだと思い登った。以外にも踏み跡らしきものがあり、手袋なども落ちていて、過去にだれか通っていたようだった。結果的に思ったより時間がかからず元の登山道に合流することが出来た。
無事に大門沢の下降点についたころには辺りは真っ白で、気温はだいぶ下がり展望もなかった。鐘を鳴らし、先を急ぐ。農鳥岳までの稜線上には雪が付いていて、再びアイゼンを着ける。このあたりから中金係の中嶋のスピードが遅くなる。内山が近くにいるが、中島は完全に下を向いてしまっている。雪は崩れやすく、しっかり踏み込まないと危なかった。雪と岩の混ざった稜線を歩き農鳥岳に到着する。そこから西農鳥岳までは雪はなく、岩山の稜線だった。1時間ほどで西農鳥岳につき、記念撮影をする。農鳥小屋に着くころに少し雲が薄くなった。
この日の問題は幕場に水がない事だった。小屋の水場の沢は雪で完全に埋もれていて、採取できなかった。別な場所を内山と下るがなかなか水場には着かず、視界も悪くなってきたので小屋に引き返す。結局、明日の行動水は雪解け水が滴っている所から一晩かけて集めることにし、食当用水はドラム缶に集まっている雨水を使った。行動水には差し入れの飲み物を早めに出しても良いかと思ったが、結構早く水が溜まったので、杞憂で済んだ。
6月15日
3:00起床-4:50出発-10:05北岳到着-12:05小太郎尾根分岐-17:55白根御池小屋到着
雲は暑く覆っているようだったが、遠くに富士山が見えた。相変わらず朝は寒い。小屋から間ノ岳までは1時間半ほどで着く。初めて登ったが、思ったより山頂付近は平らだった。途中で中嶋が外国産らしきジュースを出す。新人たちは荷物を早く軽くしたいようだ。
時間が経つにつれて、青空が見えてくる。見晴らしが良いので読図を持ちかけるが、それぞれ別な答えが返ってくる。まだ地形図と実際の地形の一致ができていない。間ノ岳から北岳までは思ったより距離があった。稜線はアルプスらしい岩稜で、良い眺めである。
小林は同期の男子以上に強かった。口では辛いとは言うが、その口調は何時聞いても変わらない。安定して歩いてきている。岩場の通過の際も、男子より早く度胸もあるようだった。そうこうするうちに小屋を通過し、北岳に登頂する。これで錬成合宿での3,000m峰は登り切ったことになる。私は初めてだが、内山と吉村は新人以来の北岳である。北岳草を探したが良くわからなかった。佐々木が新人にコーラを私何やら仕掛けるが、上手くいかなかった。
肩ノ小屋でおじさんから白根御池までのルートのアドバイスをもらう。どうやら登山道とは別に蹴りこんだルートがあるらしく、長靴で登ってこられるとのこと。分かり難いというので探すように言われた。
小太郎尾根からの下りの途中に草スベリがある。今回ここが一番の核心になるので、雪の中に入る前にハーネスを準備させる。一応教えてもらったルート通りらしき足跡が雪の上にあったので、それについて行ってみる。しかし、ある箇所から雪から出て、土の上を歩いていて、そこからどう辿って行けばいいのか分からなくなる。佐々木と内山に踏み跡らしきものを偵察に行ってもらう。時々無線で交信するが、道ははっきりしないようだった。その途中待っている新人が、明日以降の広河原に下りて高嶺に登り返すルートについて不満を言っているようだった。しかし、錬成合宿の主旨の下では、その程度の不合理なルートは許されることを彼らは知らない。
別方向に行った吉村から雪上に溝があるとの報告を受けたため、そちらから行くことにする。どうやらそれが正規ルートだった。ハイマツの淵を歩くようにトラバースし、目標の溝に着く。はっきりとした踏み跡だったので、ここから行くことにし、ザイルを準備させる。このザイルに繋げた後で、歩こうとした菅井が足を滑らせ滑落する。ピッケルでの制動は効かず、結局ザイルによって止まった。ここで少し恐怖感が生まれてしまったようだった。皆が渡った後、雪の斜面を下るときに、明らかにペースが落ちてしまった。
途中すれ違った人たちがいたが、軽アイゼンだったり、ピッケルではなくストックだったり少々不安のある装備の人たちだった。
斜面を下った後は登山道に合流できたが、ここまでに時間を使ったことに少し焦りが出てくる。分岐を逃し、行く予定の無いルートに入っていることに後から気が付く。そもそも分岐の位置が雪で埋まっていて、判断できなかったため、トラバースして元のルートに戻ることにした。ここで菅井が疲れを見せていたので、佐々木に装備を解除する。
コンパスとGPSを頼りに木の間を通り、歩きやすいところを選んで近くの沢を目指す。新人同士はお互い近くにいて、励まし合いながら進んでいた。沢を渡るところでは年のため細引きを張ったが、何とか予定のルートに戻ることが出来た。
分岐もなく、雨が降ってきたので下りは急ぎ気味になったが、最後にまた大きな雪渓が出てくる。傾斜はなく滑り落ちることはないが、転びやすくはあった。ここでまた時間がかかり、最終的に小屋に着いたのは行動限界ギリギリの5分前になってしまった。
本降りの雨の中でも設営は時間内に出来た。
6月16日
4:00起床-5:50出発-8:05広河原-14:45高嶺-17:07鳳凰小屋到着
雨の中撤収する。準備が間に合っていない新人がいたので、他の人を待たせないよう注意する。広河原に下りるころには雨はやんでいた。ここで休憩をして、再び白鳳峠に向けて登り返す。管理人の人に話しを聞くと、シーズン初めで十分な整備ができていない可能性があるとのことだったが、問題なく歩くことが出来た。
ここの登りは鎖や梯子があるので、稜線とはまた違った緊張感を持つ必要がある。4連の梯子を上ってしばらくすると、石がゴロゴロした道になる。去年の錬成ではここを下ったことを思い出しながら、今年は登る。菅井がももクロのメドレーを始める。
白鳳峠を過ぎ、高嶺への登りの途中でタッパー飯を食べる。人によってタッパー飯の好き嫌いは分かれる。冷や飯が嫌だから嫌いという人もいるが、休み時間が長くとれるから好きという人もいる。中島は特に梅干しが嫌いらしい。
高嶺の上で、怪しげなアロエジュースを飲み、鳳凰三山を目指す。このあたりにはすでに雪はなく、白いザレたような特徴的な稜線を歩く。モノリスを越えた斜面では先頭集団が走り出した。内山曰く、森の中で時々ある赤い葉っぱが小屋の屋根と勘違いするようになってからが、錬成合宿の本番らしい。沢隊的にはないものが見えてしまうことは幻覚という。
皆の疲労がたまってきたころ、やっとこさ鳳凰小屋に着く。ここには今までの小屋よりもたくさんの宿泊客がいた。というより、今までの小屋では自分たち以外の隊はいなかった。ここにきて設営が時間を切れなくなってしまった。何度か繰り返すも、改善されなくなってきたので、いい加減に区切りをつける。さすがに連日の疲労がたまってきているらしい。
錬成合宿では持ってきた差し入れの大半は消費されない傾向にある。それでも今年も山のようにお菓子やジュースが積まれた。私も最後だからとたくさんの缶を背負っていたので、やっと出せてうれしい。餡子好きの佐々木は、今年はあんみつを作っていた。普段から量の多い錬成の食事の後にはインパクトが大きかった。新人は思い思いの感想を言い、佐々木は3人分の有り難いお言葉を話したのだろう。
テント場に人が多い分長く続けることも出来ず、注意をされてしまったので、名残惜しいがこの日の最終夜は終わってしまった。
6月17日
4:00起床-6:00出発-8:30薬師岳-14:05青木鉱泉到着
長かった錬成合宿もこの日でついに終わる。好天の中パッキングをして、鳳凰小屋を後にする。薬師岳までの登りの道には所々雪が付いている。稜線に出た所が見晴らしが良かったので、昨日まで歩いていた白根三山をバックに皆で写真を撮る。沢筋に残った雪と、青空の感じが素晴らしい。思い思いのポーズで満足した後、再び歩き始める。
薬師岳の頂上で、佐々木が温存していたスイカを披露する。ここで小林が日ごろの鬱憤をこめて、拳でスイカを叩き割る。見事に割れたスイカを皆で食べる。菅井がカトちゃんバリのスイカの早食いをするが、汁が垂れるばかりであった。人がいなくなるのを待ち、大声で式典をする。
下りですれ違った人に奈良田から来たことを告げると、とても驚かれた。昨日とは打って変わって、なだらかな登山道を下り、下山地点まで目指す。途中内山の「カントリーロード」談義が披露される。そんな意味があったとは。
最後の日には小林が中金系女子として、鍋を担いでもらった。しかし、新人男子組の期待をものともせず、平然と歩いている。
これといった山場もなかったので、ラスト2時間はノンストップのぶっ通しで歩いてもらった。一つ休憩がないだけで蓄積される疲労度は増す。どうやらこれは時間で休憩を楽しみにしていた中嶋に随分恨まれたようだ。
林道に出た後で、ショートカットのために沢を渡る。結構通る人も多いようで、ペンキで印が付いているところもあった。しかし明らかに足を犠牲にして渡れる様子ではなく、思い切って水を撥ねて跳ぶしかなかった。
青木鉱泉に着くと、まだ登山者も多くないので、時間制で男女を分けているようだった。しばし小林を待ち、何とも言えない佇まいの風呂に入り、これまでの疲れを落とす。タクシーを待つ間に、各々装備を洗って干していた。
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