7月6日(金)
集合時間の18時45分に、リーダーである私小山恭平は黒い革靴を履いて登場。なぜなら、オシャレだからです。嘘です。直前まで大学院の説明会があって直接かけつけたからであった。集合時間には全員間に合い、忘れものもなし。極めて快調。見送りは、廣光さん、古川さん、横塚さん、大池さんに加え現役一同。唯一の2年、福永のザックがとてつもなく重く、2年前を思い出す。それに比べて、新人、3年はまだまだ持てそうだ。グフフ。中央線の立川駅で、偶然、、、ではなく待ち合わせていた保延さんに会う。その日は、韮崎駅からジャンボタクシーで竹宇駒ケ岳神社へと向かう。韮崎駅では雨が降っており、神社へ着くころにはもう本降りである。梅雨のど真ん中だからなと思いつつも、ちょっとテンションが下がる隊員たち。神社で、ちょうど雨宿りができる場所があったため、そこでC0とする。
7月7日(土)
5時起床。5時半出発。さすがにテントのないこの時は、本間も遅れることはない。余裕とは言わないが、十分こなしている。今日のオーダーは福尾本吉橋竹小。今日は日本三大急登に一つに数えられる黒戸尾根を登るので、最初から飛ばしすぎないように。私が二年の時は、初日に飛ばしすぎて翌日に自分がばててしまった苦い経験がある。錬成は長いのだから、まずは様子見で行こう!
とか思っていたら、福永は早速ばてる。脚が吊ったようだ。私が二年の時は、塩見岳の手前で脚をつった思い出がある。錬成は2年が一番辛いものだ。がんばれ福永。
錬成なので、歌を歌う。七夕なので「君の知らない物語」が聞けてリーダーは満足である。
行程も進んでも、福永は依然辛そうである。3回目の脚吊り休憩で大休止。福永の表情は苦しそうである。ここでは、正味1時間以上の休止を取った。福永の表情は険しく、足の痛みは引かず、そして立つのも辛いとのこと。これ以上止まっていると、今日の幕場に到着できなくなるので、已む無く福永を帰すことに。脚の痛みがあるので、3年竹内と橋下の2人を付き添わせる。福永は体力的に錬成しなおさなければならない。
ここからは、予期せぬ4人での錬成合宿となる。オーダーは尾本吉小。3,4年のザックはものすごいことになる。ということで、差し入れをどんどん食べながら進むことに。飲み物や果物が次々と出てくる。途中、スイカとメロンを同時に食べたらおなかがタプタプになる。本間は梯子の連続に難儀しているが、体力的にはまだ大丈夫そうだ。どんどん錬成せねばならない。
この日の幕場到着は17時過ぎ。途中に大休止があったことを考えると、遅いとは言えない。また、4人パーティーで新人がいると、天気図を書くために分隊ができずに途中に20分少々の休憩が入った。4人での錬成は、思った以上にやりにくそうだ。そして、そのやりにくさの真骨頂はこの後すぐに開花する。
この日の夕食は錬成の定番メニューであるすき焼きである。そして、上級生からは次々と差し入れが出される。うっ、4人では食いきれん、、、全員がそう思ったはずだ。いくら錬成とは言え、これは食の錬成のレベルを超えている。とりあえず、すき焼きを作るがどうしても食べきれないので、明日の朝食はこれに継ぎ足して作ることに。尾形は特に苦しそうだった。起床係はパパリコで吉村に決定。
7月8日(日)
3時半起床。いつもながら、夜に苦しくても、朝にはおなかが空いている。と思いきや、それはリーダーだけのようである。しかし、このコッヘルを空けなければ出発はできない。野菜はきちんと切らせてすき焼き風味噌汁を作らせる。なかなかの味。ただし、具が多い。
何とか食べきり、5時半出発。5時過ぎには出発する予定でいたが、本間ヶパッキングに時間をかけているのと、それ以上に朝食に時間がかかってしまったのでこの時間に。
今日は甲斐駒ケ岳を越えて、早川尾根小屋までの長い道のりである。まずは、甲斐駒ケ岳までの3時間少々の道のり。今日は日曜と言うこともあり、登山者は多い。ここから甲斐駒までは、梯子や鎖場も多く、昨日の本間の様子を見ると時間がかかると思われる。このあたりの鎖場は、初心者の本間には難しそうだ。しっかりと3年2人はサポートしてくれるので安心だ。本間はものすごく恐怖心をあらわにする。私が新人の時にここに来ていたら同じ顔をしていたに違いない。残雪の上では同じ顔をしていただろうから。
甲斐駒ケ岳山頂には9時過ぎに到着。途中雲の合間から青空も見えたが、山頂ではあいにくの曇天。記念撮影などをして休憩。ここまでの時間は悪くはないペース。本間が鎖場でてこずったことを考えると上々だろう。本間が休憩中に一言。「吐いてきます。」、、、大丈夫だろうか。聞いてみると、大量の食事の後に体を動かしたのが良くないのかもしれないとのこと。心配ではあるが、頑張ってもらうしかない。今日トップの吉村も、2年前新人の時に同じ状態だったのだ。良い意味で同じ轍を踏んで、強い上級生になってほしいと切に願う。
甲斐駒ケ岳から、隊のペースが落ち始める。やはり、本間の体調は万全ではないようだ。特に、大きな段差では「ヒャッ」と声が出る。女子力発揮である。題して、「新世代山ガール本間」。これからは、もう少し機動力をつけてほしい。
今日の仙水峠のリミットは12時ジャスト。一方、駒津峰から仙水峠への下り途中で、現在11時57分。もう、間に合わない。12時になったので1本を取る。タッパー飯を出しつつ休憩をしていると、本間が「ここで長いこと休憩するなら、、、」といって、スイカを差し出す。ここまでよく頑張った。昨日も思ったことだが、スイカやメロンを四人で分けると一人当たりの量がかなり多くなる。水分補給にはちょうど良いのだが。ここで30分近くの休憩を取って、その後仙水峠へと向かう。ここからは、リミットを切れなかったことにより疲労感がぐっと増したのか、仙水峠到着が14時、仙水小屋が15時と大きくコースタイムを上回ることになった。本間も後日談で、この日の仙水小屋までが一番きつかったと語っていた。仙水小屋の水は駒津峰で出会ったおじさんがおいしいと言っていたので、水をポリタンに汲み直す。味音痴の私には残念ながら繊細な味はわからないが、とりあえず冷たくておいしい。
今日の夕食はマーボー豆腐である。麻婆豆腐も錬成の定番メニューではあるが、差し入れを受け入れにくいところが難点である。そんな、麻婆豆腐にもうどんや大根など、差し入れをがっつい入れ、さらには人数が減ったために使いきらなかった、タッパー飯の食べるラー油をいれる。そんな、麻婆豆腐なのか何なのか判らない食事ではあるが、おいしい。辛いので米も進む。ちなみに、仙水峠への幕場は木の根っこがはびこっているので、快適な幕場とは言えないことを付け加えておく。明日の行程については、コースタイムとにらめっこして早川尾根小屋のリミットを12時半として就寝。
7月9日(月)
3時起床。今日は鳳凰小屋まで向かうのが目標だ。昨日のペースでは到底間に合わないので、今日はどうにかしてペースを上げていかなくてはいけない。そのために出発から本間をせかしていく。最初の一本を終えたところで、仙水峠と栗沢山の中間点。これはコースタイム通りかそれよりもやや早い程度である。このあたりで、私と本間の靴ひもが切れる。ちょうど岩場に差し掛かったあたりなので、鋭利な岩に擦れて切れたのだろう。本結びで継ぎ合わせる。太さが同じ日本のロープをつなぐときには、本結びが適していて、ちなみに太さが異なる場合は一重継ぎが良いので現役は確認しておいてもらいたい。このペースでこの先も行ければ、今日は鳳凰小屋に十分到着できるはずだ。
その後、栗沢山、アサヨ峰で2本目3本目を取る。この2本は行動時間が1時間半ずつの根性一本となった。それぞれの山頂でパイン、メロンが登場し今日もフルーツ三昧の一日が続く。言うのが何度目になるか分からないが、4人だとフルーツが4分の1カット食べられる。直角カットである。これほどの贅沢はほかにない。しかし、残念ながらというか、当然のようにというか本間のペースが下がる。この2本も、できれば1時間で進みたかった行程である。予定していた鳳凰小屋への道は黄色信号である。ただ、焦って無理しても仕方がないので、本間の様子を見ながら、それでもできる限り飛ばしていく。いつものことだが、下りでは本間の女々しい声が響く。今日は昨日よりもいっそう高く響いている気がする。
4本目の休憩は、アサヨ峰から1㎞ほど東に進んだ場所。ここまでも1時間半掛かったので、時速700m弱のペースである。今日は早川尾根小屋のリミットを12時半に設定していた。現在の時刻は11時であり、次の1本で早川尾根小屋に着けるかどうかが勝負になる。仮に着けないのであれば、その時点で早川尾根小屋をC3とし、翌日は下山となる。ここで隊員4人は気合を入れ直す。ここが勝負だ!
ちなみに、このルートは昨年私が逆方向から進んだ時にも、新人が苦しめられたルートである。合宿後半の、体力疲労が顕著になってきたときにアップダウンの繰り返しである早川尾根は、結構な関門となるはずである。この関門を突破して新人の本間を鍛え上げたい。と思うのであるが、本間は相変わらずのペースである。吉村は本間のペースをどうにか上げさせようとするも、本間はついてこられない。ただし、ここから先は傾斜の緩いところも少しずつ出てくるので、そこでペースを上げさせればまだ間に合う可能性は十分にある。しかし、いよいよ本間の疲労もピークに達しているのだろうか、もう気力だけで歩いている状態になる。
12時30になっても、いまだ早川尾根小屋手前にいる我々。無念。その場で一本にし大休止。早川尾根小屋には13時半前に到着。ここをキャンプ地とする。幕場のおじさんに幕場代を払いに行くと、まだオープン前だからとサービスしてもらった。ありがとうございます。食当までは時間に余裕があるので、これまでの雨で湿ったテントや装備を乾かす。ちょうど天気も良く、これまでの疲れをいやすのには最高の場所である。食当はこれまでに使わなかった差し入れを使って、具だくさんキムチ鍋をつくる。今日もまた大根がたっぷりと入っている。この夕食はあまりの大根の量に、3年生もまさに大根に食傷気味といったところである。そして、いよいよ最終夜。4人では到底消費できそうに出来そうもない差し入れの量。そんな素敵な空間で、本間の感想と3年生からのありがたい言葉。就寝フリーであるが、上級生は酒の回りが早いので遅くない時間には就寝。
7月10日(火)
今日の行程は、赤薙沢ノ頭を経て広河原へと下りる。コースタイム的には長くない行程であるが、下りがほとんどであるため本間のペースが上がらず時間がかかるかもしれない。それを考慮して、いつもと同じくらいの時間に出発。赤薙沢の頭までは1本で到着。朝早いため人もおらず、式典も無事に終了。ここで、本間のパオーンも済ます。ここからは下りが延々と続く。本間がハマる可能性が大のため、上級生で歌などを歌って励ましながら進む。すると、本間も「歌います!」との声。ここから、本間の快進撃が始まる。
本間のレパートリーは「ラジオ体操の歌」「マル・マル・モリ・モリ!」など個性的な歌が並び、歌うたびに本間が元気を取り戻してくる。意外なことに、林道に出るまでは赤薙沢の頭から3本ほどであった。本間に元気なまま錬成合宿を終えてもらうことはできないので、最後の林道10分ほどを全力ダッシュ。これまでの行程で脚に疲労がたまっているはずなので、本間は相当きつそうである。これで最後だ頑張れ。
そして、広河原のゲートをくぐる。本間にとっては永遠よりも長く感じられてかもしれない錬成合宿終了の瞬間である。そのあとは、乗り合いタクシーで芦安へと向かい、温泉で打ち上げ。そこで本間が食べていたのは素麺である。山での食事が相当こたえたのであろう、素麺のような食事が本間にとって御馳走のようである。長かった錬成合宿であったが、本間は少し強くなった。夏合宿、その後の活動で本間もそれを実感してくれるだろう。また、尾形と吉村の2人は2年生がいない中で、隊の立ち回りを上手にやってくれた。ザックもかなり重かったはずだが、そこはさすが3年生である。
福永とともに下山した竹内と橋下は、不完全燃焼に違いないが、逆に言えばあまりない経験ができた。自分たちが代をとった時にも行動判断は慎重に的確に行ってくれると思っている。福永は、自分自身が一番ふがいないと思っているに違いない。下級生の前では弱いところを見せてはいけない。福永の性格なので、この失敗は必ず次に生かしてくれると信じている。いろいろあった合宿ではあったが、新人の成長が少しでも見られたことは、とても意義のあったことだと思う。
コメント